論文紹介

2016.05.06

タゴガエルの系統地理

先日,自分のラボで研究したオイカワの系統地理論文を紹介しました.他にも淡水魚の系統地理のデータで論文化できてないものがたくさんあるので,早く論文にしないといけないのですが…

 で,それはともかく,最近は両生類にもちょっと興味が出て,いろいろ調べてるのですが(ただし,研究対象とするには先行研究が充実しているので手を出しにくい),GW連休に岐阜の山の方でタゴガエルの鳴き声がする場所を見つけて,Facebookに鳴き声入り画像を投稿したところ,いろいろなところにタゴガエルがいるらしいことをコメントでもらいました.

 また,タゴガエルについては,「幻のカエル―がけに卵をうむタゴガエル」という本の中で,房総半島では3月が産卵期と書かれているのに,岐阜では5月に鳴いているので,遺伝的に違うんじゃないかと思って論文を調べてみました.で,見つけたのがこれ.
 
Eto et al. (2012) Highly Complex Mitochondrial DNA Genealogy in an Endemic Japanese Subterranean Breeding Brown Frog Rana tagoi (Amphibia, Anura, Ranidae).  Zool. Sci. 29: 662-671.
 
 いやはや,すごくサンプリングが充実していて,しかも結果が面白い!
 
 要点としては,
 
・日本産タゴガエル類(タゴガエル,ナガレタゴガエル,オキタゴガエル,ヤクシマタゴガエル)の系統は大きく2群(A, B)に分かれ,A系統は(本州の東半分のタゴ+四国・九州のタゴ+ナガレタゴ+ヤクシマタゴ),B系統は(滋賀県・三重県以西の本州のタゴ+オキタゴ).
 
・いろいろ含むA系統は,A1(東北から北陸,近畿北部),A2+A3(ナガレタゴ+関東地方のタゴ),A4+A5+A6(群馬,長野・山梨・郡上,愛知・伊勢・ネバタゴ),A7(四国),A8(ヤクシマタゴ),A9(九州)に分けられる.
 
・B系統は,B1(オキタゴ),B2a(滋賀・三重から兵庫・岡山あたり)とB2b(鳥取・島根・広島・山口)に分けられる.
 
 と,いう感じ.
 
 かなり地域差があって,なんとなくパターンがあるのが面白い.
 
 「幻のカエル」は房総半島のタゴガエルなので,ミトコンドリアDNAについてはナガレタゴガエルの系統に含まれる.これをもって関東のタゴはナガレタゴから進化した,みたいに考えるのは早計なんですが,少なくともナガレタゴと近縁な可能性,もしくはナガレタゴと過去に交雑した可能性のどちらかはあるわけで,それが他地域との産卵期の違いなどと関連していたとするとおもしろい.
 
 本州西部のB2系統の分布も,B2aとB2bの分布は,まだ論文になってないアレとかコレとかの淡水魚に似てるなぁ…という感じ.一方はボクの怠慢だけど,もう一つは某大学で博士過程で研究してた人がいたんだけどな…
 
 あとは,岐阜県あたりにいろいろな系統がいるのが気になります(笑)
 
Photo
 
 北の方からはA1系統,
 南西からはB2系統,
 南東からはA6系統が侵攻し,
 孤立したA5系統が奥美濃に残っているという感じ?? 東濃から中濃がどうなっているのか気になりますね.
(なお,この図は論文の記述を元に向井が作図したものです)
 
 
 記号だと味気ないという方には,
 
 越後・越中・越前・北近江からは上杉・浅井,
 近江南部・桑名から六角,
 尾張・三河からは織田・徳川

 といった勢力に囲まれている,という戦国時代の勢力図になぞらえればわかりやすいかな? さあ,どうなる美濃国! (笑)

 

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2016.04.11

日本産オイカワの系統地理

P8091485

日本列島の広範囲でサンプリングしたオイカワのmtDNAを解析した論文が,オンラインで公開されました.

S Kitanishi, A Hayakawa, K Takamura, J Nakajima, Y Kawaguchi, N Onikura, T Mukai.

Ichthyological Research,  DOI: 10.1007/s10228-016-0522-y
 
 基本的には,第二著者の早川明里さんの卒論を,第一著者の北西滋さんが再解析して論文化してくれたもので,2007年から2009年頃に早川さんが学会発表してきた内容です.
 
 リンク先から論文の内容が見られないという方は,著者の誰かにメールでPDFをリクエストしてください.
 
 
 さて,論文の内容について,図表などを載せて説明したいところなのですが,論文の著作権は日本魚類学会にあって,許可を得て載せるのもめんどいので,すみませんが図表無しで要点を書くと,次のような感じです.
 
 
要点1:日本産オイカワのmtDNAの系統は,大きく3系統(EJ, WJ, KY)に分けられる.
 
 EJ(東日本)系統は,関東地方から中部地方まで分布.
 WJ(西日本)系統は日本中に分布するが,おそらくは琵琶湖水系から九州北部が在来分布.
 KY(九州)系統は,九州固有.
 
 一般的なコイ科魚類のmtDNAチトクロームb遺伝子の分子進化速度(0.76% / million years / lineage)を用いて,BEAST v1.8.1で推定させると,九州(KY)と本州(EJ+WJ)の分岐年代は1.9-4.1百万年,伊吹・鈴鹿山地を境にした東(EJ)と西(WJ)の分岐年代は1.5-3.1百万年.
 
 
要点2:各系統の分布域内での地理的分化も多少は見られる.

 EJ系統の分布域の中では,「関東地方・長野県・静岡県」と「愛知県・岐阜県・三重県」の2地域間でハプロタイプが共有されず,遺伝的に分化しています.ただし,両地域のハプロタイプは相互に単系統になっておらず,他のいくつかの淡水魚で見られるような「フォッサマグナを挟んだ大きな遺伝的分化」は生じていません.
 
 WJ系統の中では,山口県西部から九州北部に固有のサブクレードがあるが,それ以外の琵琶湖水系から瀬戸内海沿岸に顕著な遺伝的集団構造は見られません.
(ただし,この地域に着目した詳細なサンプリングと解析を行えば,瀬戸内沿岸地域の集団構造が見られる可能性はある)
 
 KY系統の分布域内での地理的分化は見られないが,分布域の南側の多様性が高く,九州北部の多様性が低いという違いはあります.
 
要点3:琵琶湖産アユの放流への随伴導入と思われるWJ系統のハプロタイプが全国に見られるが,EJおよびKYも,分布域周辺への移殖などが多少は見られる.
 
 分布攪乱の大きな要因はアユ放流だと考えられますが,それ以外にもオイカワの移殖を目的とした放流も行われていたようです.
 
 
 以下,いくつか重要な補足をしておきます.
 
<大事な補足その1 オイカワの自然分布域>
 
 今回の研究では,オイカワの自然分布について必ずしも明確なことはいえません.水口(1990)が聞き取り調査をもとにオイカワの自然分布域を推定していますが,今回の結果は,それと矛盾しないため,「とりあえず」水口(1990)のオイカワの自然分布域を正しいと仮定して議論しています.
 
 しかし,本当に,信越地方や北陸地方,山陰地方,四国西部,九州南部は移殖分布なのか,というと,何とも言えません.

 たしかに,伊豆には天竜川からオイカワが移殖されたという聞き取り結果があり,ハプロタイプの分布も天竜川由来を示しています.九州内では,オイカワがいろいろな河川間で移殖されているという漁協への聞き取りの結果もあります.そうすると,各系統の分布域周辺への移殖がしばしば生じていて,その結果として信越地方のEJ系統や九州南部のKY系統の分布が見られるということも十分考えられますが,自然分布を否定するのも難しいように思われます.
 
 こうした地域のオイカワの在来性の検証は,それぞれの地域の自然史に詳しい方が,詳細に調べなければ結論は出せません.
 
 
<大事な補足その2 撹乱の現状>
 
 オイカワの移殖による分布撹乱ですが,この論文では全国にWJ系統が広がっていることを示しました.しかし,各地域の全てのオイカワが遺伝的に撹乱されてしまったのかどうかは,まだわかりません.魚の遡上を阻む堰堤によって本流から隔離された河川などに,各地域在来のオイカワが純系を保っているかもしれません.
 今後は,各地域で,撹乱されていない在来オイカワの分布を調べて,必要ならば保全するなどの対策へと進めていく必要があるでしょう.
 
 
<大事な補足その3 オイカワ3系統は(まだ)別種や別亜種とはいえません>
 
 この研究で,日本のオイカワは大きく3系統に分かれることが示されましたが,これをもって「オイカワも将来的に3種(もしくは3亜種)になる」と考える方がいたら,それは早計です.
 少なくとも,関東地方の主要河川では在来オイカワ(EJ)と外来オイカワ(WJ)が完全に雑種化していることがマイクロサテライト分析で示されていますし(一般書籍としては「見えない脅威“国内外来魚”」の第6章参照のこと),おそらく3つの地域系統の間で生殖隔離は無いと考えられます.九州系統については不明なので,もう少し研究は必要ですが,少なくとも現状で「生殖隔離がある」とする根拠は無いため,今のところ「別種」にはならないと考えられます.
 
 では,亜種なのか?というと,そう簡単には決められません.亜種というのは,形態的な地域差が明確な時に,種内の分類単位として使われますが,オイカワの3系統の形態的差異は今のところほとんど知られていません.いずれ3系統を見分けられる特徴が見つかったら,分類されるかもしれませんが,少なくとも現状でオイカワを3亜種と考えるには,まだ根拠が足りません.
 
 
 
 
 以上,ざっくりした解説でした.

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2013.08.30

ナンヨウボウズハゼ属の新種

2003年の秋ごろに熱帯魚店によく出回っていたナンヨウボウズハゼ属がいて,どうも未記載種っぽいなぁ,とは思っていたのですが,ついに前田健さんの新種記載論文がでました.

Ken Maeda and Heok Hui Tan, (2013) Review of Stiphodon (Gobiidae: Sicydiinae) from western Sumatra, with description of a new species. THE RAFFLES BULLETIN OF ZOOLOGY. 61(2): 749–761.

↓ちなみに,これが2003年11月に購入したオス.

Pb180016

↓こちらは2003年11月に購入したメス.
Pb230035

 ところで,上の写真をよく見ていただくとわかるのですが,尾びれが欠けています.これはDNAサンプルを採った後なんですけど,とりあえず飼育していたらいまだに元気なんですよね.

↓2013年現在の良い写真が無いので2012年4月13日に撮影した求愛行動.

P4131538

 ま,なんにしても名前がついて良かった.これで他人に説明するときに「ナンヨウボウズハゼの仲間の何か」じゃなくて,Stiphodon maculidorsalisというスマトラ島あたりの種類ですよ,と言えます.

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2012.05.16

ヒスイボウズハゼ

沖縄科学技術大学院大学の前田さんと共著で出した新種記載の論文が出版されたので,プレスリリースされました.

OIST研究者が沖縄の川で新種の魚を発見

 一応,前田さんらが発見したころから,DNAを調べたりして手伝ってきたので,共著者にいれていただいてますが,ボクが実物を見たことが無いのはここだけの話です(笑).でも,写真で見るだけでもきれいですよね~.

 ちなみに,記載に用いた模式標本(パラタイプ)のmtDNAの全塩基配列も決定して登録してあるので,他の研究者の方が類似したハゼを採集した場合,mtDNAのどの部分の塩基配列でもヒスイボウズハゼのパラタイプと比較できるという親切さ(笑).DNAバーコーディング時代にも対応した記載論文です.

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2012.05.15

岐阜県産魚類目録の再検討

昨年書いた論文が出版されて別刷を受け取りました.

P5151579


 

 日本国内にしてもなんにしても,その地域にどのような動植物がいるのか,というのは大切な情報です.歴史や文化は,その場所の自然環境によって成り立っていますし,ある種の生物が産業や観光等に有用であった場合は,生物資源・遺伝子資源(○○産の△△というのがブランドになるなら,それはその地域の遺伝子資源といえます)となるわけですから,潜在的な資源の一覧というのはとても大事なものです.また,絶滅のおそれがある種のリスト(レッドリスト)作成においても,適切な生物相のリストがなければ始まりません.

 さて,そういう重要な生物リストですが,充実している地方は少ないのが現実です.淡水魚は比較的研究されている方ですが県内で十分な調査地点を,確かな精度で調査されているかというと,疑問符のつく県も多いはずです.そのような状況で,都道府県版レッドリストなどは作られているわけですから,なるべく改善していくべきなのは言うまでもありません.

 岐阜県も適切な根拠に基づく魚類相についての文献はなく,行政などがおこなう環境調査も,証拠標本や証拠写真を残すという風習のないまま,採集された種のリストだけがまことしやかに作られていました.

 ということで,状況改善のために,まずは過去の文献をなるべく集めて,どのような魚種がいるとされてきたのかを集約し,次に博物館に登録された標本をチェックして,リストの種について証拠標本があるものを,確かな記録としていく作業をしました.

 もちろん,博物館に十分な標本が登録されているわけではなかったので,手持ちのものを新たに登録して証拠標本を追加していき,ようやくにして根拠のある「岐阜県産魚類目録」が完成したわけです.

 まだ,現時点でのとりまとめでしかないので,今後新たな標本や文献資料が出てきたら改訂していく必要がありますし,和名や学名の変更に伴う改訂も必要なので,毎年バージョンアップしたものを作成して公表するつもりですが,まずは地域で活動する様々な方々から新たな情報を提供していただくための基礎ができたというところです.

 最先端の科学とは程遠いのですが,地域の自然についての適切な情報を,ちゃんと提供するのは大事なことなので,結構手間をかけたんですよ,これでも(笑)

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2012.01.20

北日本メダカの新種記載

いつのまにか,メダカ北日本集団が新種記載されてました.

Toshinobu Asai, Hiroshi Senou and Kazumi Hosoya (2011) Oryzias sakaizumii, a new ricefish from northern Japan (Teleostei: Adrianichthyidae). Ichthyol. Explor. Freshwaters, Vol. 22, No. 4, pp. 289-299.
 

 英名はNorthern medakaということですが,和名はまだ付けられていません(なんでかな?).

 以前にメダカ Oryzias latipesとされていたものは,次のようになります.

Oryzias latipes (メダカ南日本集団.和名メダカ?)
Oryzias sakaizumii (メダカ北日本集団.新和名は未公表)
Oryzias sinensis (メダカ中国ー西韓集団.和名無し)
Oryzias sp. (メダカ東韓集団.和名無し)

 まだちゃんと読んではいないのだけど,豊岡や久美浜,網野のハイブリッド集団は形態からO. sakaizumiiとしているみたいですね.しかし,パラタイプに豊岡のサンプルが含まれているのに,タイプ標本の採集地の地図(Fig. 6)には豊岡の位置に印がないような? それに,本文ではmtDNAもこれらのハイブリッド集団は北日本だと書いてあるけれど,久美浜や網野は南日本のmtDNAなんですが…

(追記:ハイブリッド集団のことなどは,酒泉(1987)などを見直して書き直しました. 1/21)

 それと,形態的にはメダカ東韓集団はO. sakaizumiiと同じクレードとか書かれてるんですけど,形態的に類似しているだけで,アロザイムとmtDNAは全然違うし,体表の黒点の入り方も卵サイズも全然違うから,計数形質とかだけで判断するのはやめてほしいです.本文では東韓集団をO. sakaizumiiもしくは名前の付けられていない種,とされてますが… 分子系統の結果の中で,自説に都合の良いところ(南日本と北日本メダカは遺伝的に大きく異なる)は使って,都合の悪いところ(南日本と北日本は遺伝的には単系統で,東韓集団は日本産2種よりも遺伝的には,はるかに大きく異なる)は無視して…みたいな,すごく不安を感じさせる内容だな~,と思ったりします.

 名前をつけるのは,すごく大事なことですし,分類学の必要性や重要性は認めているつもりなのですが,だからこそ,科学としてダメ出しせざるを得ないようなことだけは,しないようにしてほしいと切に願っております.できることなら,他人の批判とか,否定とかしたくはないのですよ.

追記: 上で消した部分について.(1/27)

ちゃんと論文を読み返すと,背鰭の第5軟条と第6軟条の間の切れ込みの深さと黒色素胞の密度から東韓集団とO.sakaizumiiは同じクレードになるので,東韓集団はO. sakaizumiiの亜種か,あるいは別種,というふうに書かれていますね.そして,両者は臀鰭の黒点と尾柄の黒色素の密集の有無で区別できるということです.

 と,いうことで,別の分類群として認識しているのは確かで,特に分子系統的なことには言及していないわけですが,それならばイントロで北日本と南日本の遺伝的分化が古くて云々,ということをそれほど強調するまでもないわけです.アロザイムとmtDNAをもとにした遺伝的解析では,メダカO. latipesと呼ばれていたものは4群とされている,ということで充分であり,北と南の遺伝的分化の深さを別種とする根拠に結びつけるならば,東韓と日本産2種の遺伝的分化の深さもそれなりに考慮したほうがよいでしょう.(Takehana et al. 2005では,核遺伝子のtyrosinase遺伝子も解析されていますが,そちらは変異が少なすぎてO. latipesグループ内のことについて議論できるほどのデータではない)

 別に論文の内容全体を否定しているわけではないのですが,どうも記述の不備(形態の記載の不備という意味ではなく,論文としての体裁の問題)などが目に付きます.

 それと,直接受け取ったわけではないのですが,このブログの内容に対してエライ先生から感情的な(罵詈雑言で?)御批判をいただいたらしいです.上記の書き直した部分のように,ちゃんと読まずに書いていた部分は申し訳なく思います.ただし,分子系統や集団遺伝解析の結果から,都合のいいところだけつまみ食いしたような印象は変わりません.

 記載分類は,古い標本(昔記載されたタイプ標本など)を用いてもわかるような形態的記載を中心とした実用性が重要だと思います.したがって,形態的に明確な差異のあるものであれば,遺伝的解析の話は本来ならば不要であると思います.そして,形態的差異が微妙であるが,その他の証拠から生物学的に異なる集団であるということが明らかなら,遺伝的解析や行動観察,野生での生態の情報を,「適切に」総合して論じればよいでしょう(必ずしも記載論文の中でではなく,他の論文としてでもかまいません).

 ブログという媒体は,多くの人の目に触れるという意味で過剰反応される方もいますが,それならば「論文」は人の目に触れないようにしているのかといえば,そんなことはありません.科学論文というのは,誰にでも読めるところに公表して,自由に見て,批判なりなんなりするためのものです(執筆者が大学院生だろうとなんだろうと,同等に批判や検証の対象となりうる).それならば,なぜブログが攻撃されるのかといえば,おそらくは「軽口でケチを付けられるのが癪にさわる」のでしょう.論文等に対する批判をする場合は文体を考慮するべきなんでしょうね.

引用文献

酒泉 満(1987)遺伝学的手法によるメダカの生物地理.遺伝1987年12月号(41巻12号),pp.17-22.

Takehana Y, Naruke K, Sakaizumi M (2005) Molecular phylogeny of the medaka fishes genus Oryzias (Beloniformes: Adrianichthyidae) based on nuclear and mitochondrial DNA sequences.  Mol Phylogenet Evol, 36: 417-428.

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2011.05.26

魚類学雑誌58巻1号

先日届いた魚類学雑誌,なかなか読み応えのある論文が多かったです.
個人的に興味を惹いたものをいくつかチョイス.
 
 
・伊豆半島南部の稲生沢川水系における魚類の流程分布.(pp.13-25)
 
 河川の魚類調査として「やれることは全てやった」といえるお手本的な論文.すばらしい.
 科学的に新しいことを何か開拓できたわけではないかもしれませんが,各地域の生物の分布と環境をしっかり記録しておくのは,今後の保全生態学や応用生態工学のような,自然を守り,あるいは復元する分野に必ず役立ちます.
 
 
・吉野川分水による吉野川水系から大和川水系へのカワムツの移入.(pp.65-74)
 
 導水事業による河川間の遺伝的攪乱に関する研究.こうした事実がわかったからといって,何が出来るというものでもないのですが,それでも自然の姿が,どのように変容していくのか,というプロセスを知れば,本来の日本列島の自然がどのようなものだったのかを知ることにつながるはず,と思いたいです.
 
 
・市販されているメダカのミトコンドリアDNA遺伝子構成.(pp.81-86)
 
 10年余り前にメダカが「絶滅危惧種」とされてから,観賞魚店ではクロメダカがプレミア価格で売られるようになった気がするのですが,そのクロメダカはどこかの野生個体群から採集されたものではなく,ヒメダカ養殖の中で「体色が黒いヒメダカ」を集めたものというオドロキの事実.
 他にも,メダカの流通に踏み込んだ内容なので,「メダカの放流」対策を考える上で必読です.

 
・日本の希少魚類の現状と課題.(pp.99-107)
 
 今回は海水魚レッドリスト検討のための予備調査の結果と,アオギスの話.
 海水魚のレッドリスト作成は,個々の魚種についての情報が無いので難しいですよね…
 アオギスについては,周防灘の個体群が比較的安定した状態らしい,ということなのは良いのですが,それでも限られたエリアですし,中津干潟が潰されたら終わってしまうような気もして,不安は残ります.それと,すでに絶滅した可能性の高い海域の中で,伊勢湾だけろくな記録が無いというのが,なんとも……三重県や愛知県の沿岸環境への関心は,どうなってるんでしょうね? (まぁ,「県の魚」がそれぞれイセエビとクルマエビですからねsweat01 あんまり魚類には興味の無い県民性なのか?)
 
 
・高木和徳先生の思い出.(pp.118-119)
 
 ハゼ神様の一人だった高木先生がお亡くなりになっていたことを,この記事を見るまで知りませんでした…
 3年ほど前のゴリ研究会までは参加されていたかな.ボクは目上の方とお話しするのが苦手なので,あまりお話しする機会は多くはなかったのですが,それでもゴリ研究会ではしばしばお会いしましたし,柔和な感じの先生でした.(でも,きっと若い頃は切れ者だったのだろうな,という部分も)
 ご冥福をお祈りします.
 
 
・Ichthyological Research-現状と論文投稿へのお願い.(pp.119-125)
 
 「これから論文を投稿する若者のために」とタイトルを変えても違和感の無い記事.
 大学院生などが論文を書いて投稿するときに,論文の内容とは別に直面するのが学術誌の査読システムで,指導教員が懇切丁寧に教えてくれればいいのですが,そうでなければ無作法でいろいろ迷惑をかけてしまいます.論文を投稿する人は,まずは原稿を完成させた後,これを読んでから投稿しませう.
 最後のIRへの投稿の勧めについては,まぁ,わかるんですけどね… せめてカラー代を安くしてください…

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2011.04.26

よしのぼり

著者から早々に別刷りPDFをいただいていたのですが,フットワークの軽い若い人がブログで紹介してたりするので,鈍重な自分がわざわざ書くまでもないかな,と思ってました.しかし,情報の補足を兼ねてちょっとだけ紹介.
 
 
■MJP van Oijen, T Suzuki, IS Chen (2011) On the earliest published species of Rhinogobius. With a redescription of Gobius brunneus Temminck and Schlegel, 1845. J Natl Taiwan Mus, 64: 1-17.
■鈴木寿之・陳義雄(2011)田中茂穂博士により記載されたヨシノボリ属3種.大阪市立自然史博物館研究報告 65号,9-24.
 
 
 長年,日本産ヨシノボリ属の多くの種の学名が未確定だったのですが,この2編の論文でいくつかの種の有効名が判明しました.多少,えいやっと気合いで乗り切っているところもあるような気がしますが,学名を付けない限りは外国の人とヨシノボリについての適切な情報交換ができなかったわけですから,少々問題が残っていようとも,名前を当てはめておくのは大切です.そうでないと,日本の魚類研究者は個々のヨシノボリを別種であるという前提で研究しているのに,外国の研究者は同種内の話だと思ってしまうので,話が噛み合わないし,研究の価値が理解されないような感じのままでした(個人的な経験では,ですが).
 
 
 さて,そんなわけで,和名学名の現状.

★まずは確定組.
 
ゴクラクハゼ Rhinogobius giurinus
カワヨシノボリ Rhinogobius flumineus
クロヨシノボリ Rhinogobius brunneus
オオヨシノボリ Rhinogobius fluviatilis
トウヨシノボリ Rhinogobius kurodai
 
※ Rhinogobius brunneus=クロヨシノボリ,というのが,とりあえず確定したのですが外国の図鑑や論文,ウェブページでは,これまで極東のヨシノボリ類(シマ・クロ・オオ・トウ・ルリなど,学名が特定されていなかった全て)の一般的な呼称としてRhinogobius brunneusが慣習的に使われてきたため,今後もしばらくはいろいろな種に対してRhinogobius brunneusが安易に当てはめられた状態が(少なくとも海外では)続くでしょう.
 その間は,さまざまな混乱が予想されますが,研究者やナチュラリストの皆さんが,van Oijen et al. (2011)に基づいて「日本でクロヨシノボリと呼んでいたものがRhinogobius brunneusである」こと,そして,逆は真ならず,「外国でRhinogobius brunneusと呼ばれているのはクロヨシノボリではない可能性が高い」と明確に理解して,正しく学名を使用していけば,いずれは安定するでしょう.
(なお,学名が特定されていない和名のみの種についても,適切な記載を伴う和名を用いることは重要で,他の名前をいたずらに使用して混乱させるようなことは,少なくとも研究者,教員,学芸員等の社会的に責任のある立場の人は自重する必要があります……なんて,いちいち書かなくても,皆さんわかってますよね) 

 
★次に未確定だが名前の見当がついているもの
 
シマヨシノボリ Rhinogobius nagoyae

※ 田中茂穂博士が1908年に記載したCtenogobius katonisは,シマヨシノボリに該当するため,ヨシノボリ属としてRhinogobius katonis (Tanaka, 1908)と呼ぶことができる.しかし,Jordan and Seale (1906)の記載したRhinogobius nagoyaeもシマヨシノボリに該当するのが,ほぼ確実なため,R. katonisはジュニアシノニムとなり,シマヨシノボリの学名はRhinogobius nagoyaeが妥当ということになる(鈴木・陳,2011).
 この意味において,魚類学会のホームページの「シノニム・学名の変更」のところに「シマヨシノボリR. sp. CB(ハゼ科)の学名確定 Rhinogobius katonis (Tanaka, 1908)」と書かれているのは,適切ではありません.
 
 しかし,鈴木・陳(2011)では,シマヨシノボリをRhinogobius nagoyaeとして再記載したわけではなく,和名と学名の対応を論じただけなので,まだ確定には至っていない.(ややこしいですねsweat01
 
(4/30追記:「シノニム・学名の変更」該当ページの記述は削除されました.論文中の書き方が紛らわしかったので仕方ないとは思いましたが)
 
 
★未確定で,根拠も明確ではないが,対応する可能性があるもの. 

ルリヨシノボリ Rhinogobius similis
  
※5/5改訂追記:similisのホロタイプがルリヨシノボリだとする根拠は無いが,ホロタイプの標本が失われてしまったことが確実な場合,同産地の標本をネオタイプとして指定することができる.その場合,similisの模式産地で採集されたルリヨシノボリの標本をネオタイプとして指定することには重要な意味がある.
 
 たとえば,ヨシノボリ類の最古の学名であるsimilisを正体不明な状態にしておいた場合,すでに学名が確定したはずのヨシノボリ類や,今後新種記載される種の学名が,今後もずっとsimilisのジュニアシノニムとして消え去る可能性を残すことになる.しかし,similisをルリヨシノボリとしてネオタイプを登録,記載すれば,ルリヨシノボリとは別種であることが明らかな他のすべてのヨシノボリ類の学名は,similisのジュニアシノニムとして消え去ることは無くなり,学名が安定する.
 
 したがって,similis=ルリという根拠は無いが,命名規約上はルリヨシノボリをsimilisとして再記載することは可能であり,学名の安定性に貢献するという点で非常に重要かつ有用な作業である.
 
 
 
★有効名との対応が不明で,未記載種の可能性もあるもの
 
アオバラヨシノボリ Rhinogobius sp. BB
アヤヨシノボリ Rhinogobius sp. MO
オガサワラヨシノボリ Rhinogobius sp. BI
キバラヨシノボリ Rhinogobius sp. YB
シマヒレヨシノボリ Rhinogobius sp. BF
トウカイヨシノボリ Rhinogobius sp. TO
ヒラヨシノボリ Rhinogobius sp. DL
ビワヨシノボリ Rhinogobius sp. BW
 
 
 ということで,なんとなくスッキリしはじめた感はありますね.
 
 
◆しかし,ここで,懺悔.
 
 鈴木・陳(2011)にしても,今年の3月に発売された「釣魚1400種図鑑 海水魚・淡水魚完全見分けガイド」(小西英人著,エンターブレイン)にしても,日本産ヨシノボリ類(特にトウヨシノボリ類)のmtDNAの系統解析の結果をもとに○○系という言葉で説明がなされています.
 その根拠となるデータは,ボクの手元にあって,ずいぶん前に学会発表して,また一部の情報を「淡水魚類地理の自然史」の中で小出しにしただけで,全く公にしていません.
 論文としての公表が遅いせいで,このような論文や本の中に中途半端に紹介される形になったのは,すべてボクの責任です.本当に,世間に顔向けできないですね…
 
 ただ,言い訳をさせていただくと,データを増やせば増やすほど系統樹がカオスになってくるのです.もはや,あえてトウヨシノボリ類のデータだけに限定して論文にするように方針を変えないと,たぶんまとまらないな…
 

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2010.08.17

ゼゼラの遺伝的分化

この春に新種の淡水魚として淀川水系のヨドゼゼラBiwia yodoensisが記載されたのですが,それに関連する日本産ゼゼラ類の各地域個体群間の遺伝的関係についての論文が出ました.
 
 
Katsutoshi Watanabe, Seigo Kawase, Takahiko Mukai, Ryo Kakioka, Jun-ichi Miyazaki, Kazumi Hosoya (2010)
Population divergence of Biwia zezera (Cyprinidae: Gobioninae) and the discovery of a cryptic species, based on mitochondrial and nuclear DNA sequence analyses.
Zoological Science, 27: 647-655.

 要点としては次の通り.

1)ゼゼラとヨドゼゼラは,遺伝的に大きく異なる

2)ゼゼラ(Biwia zezera)の在来分布は,濃尾平野,琵琶湖,山陽地方,九州北部.

3)飛び地になっているゼゼラの在来分布域の各地域個体群間の違いは,ヨドゼゼラとの差に比べると非常に小さいが,濃尾平野個体群が最も分化しており,その次が九州,琵琶湖と山陽はかなり近縁.


 それ以外の細かな発見とか推論は,内容を読んでくださいませ.

 それから,PDFの欲しい方はメールで御連絡いただければ添付して送ります.(tmukai…のアドレス宛を推奨)

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2010.04.12

新種

◆また日本の淡水魚に新種が増えました.ヨドゼゼラです.

Kawase S and Hosoya K (2010) Biwia yodoensis, a new species from the Lake Biwa/Yodo River Basin, Japan (Teleostei: Cyprinidae). Ichthyol. Explor. Freshwaters, 21(1): 1-7.
 
PDFを第三者が勝手に配布するわけにいかないので,論文の欲しい方は著者に連絡していただくか,「御相談ください」.

 さくっと学名が付くと,本当にスッキリした感じがしますね.

 関連する論文として,ヨドゼゼラが他地域のゼゼラとは遺伝的に大きく離れているということを示したものもありますが,まだ学会誌に掲載されておらず,PDFになっていないので,もうちょっとお待ちくださいませ.こちらは,ボクも著者に入っているので,PDFをくださいと言われたら,ハイハイと差し上げることができます.
 
Watanabe K, Kawase S, Mukai T, Kakioka R, Miyazaki J, Hosoya K.
Population divergence of Biwia zezera (Cyprinidae: Gobioninae) and the discovery of a cryptic species, based on mitochondrial and nuclear DNA sequence analyses.
Zoological Science, in press


 ちなみに,先日のシマヒレヨシノボリについては,本来なら形態的に特徴のある地域個体群なので「亜種」の方が良いのですが,トウヨシノボリの学名が定まっていない状態でトウヨシノボリの亜種として名前を提唱することはできない,ということで「種」扱いになったという経緯もあります.ようするにシマヒレの記載がスッキリしないのは,他のヨシノボリ類の学名が付いていないせいだという側面もあります.

 ハゼ類については,ヨシノボリ類以外にも,ジュズカケハゼ類やゴマハゼ類など,学名が付いてないとか,和名すらついてないとかいったものもまだまだあります.そして,DNAを調べて「これは他とは明らかに違う」と言っておきながら,その後の命名をしない,という悪者の一人がココにいるわけですが… すいません.記載するための形態観察や模式標本との照合のためのスキルは,ボクは持ってないんです.
 
 
◆先週末の金曜日には,まだ成体の写真を撮影していなかったスナヤツメ北方種を採集しに行ってきました.
 
 
Dsc_2730
無事採れました
 
 
 常にガラス面に吸い付くので,イマイチ格好良い写真にならないですね.細長いから写真も見栄えがしないし.

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