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April 2016

2016.04.11

日本産オイカワの系統地理

P8091485

日本列島の広範囲でサンプリングしたオイカワのmtDNAを解析した論文が,オンラインで公開されました.

S Kitanishi, A Hayakawa, K Takamura, J Nakajima, Y Kawaguchi, N Onikura, T Mukai.

Ichthyological Research,  DOI: 10.1007/s10228-016-0522-y
 
 基本的には,第二著者の早川明里さんの卒論を,第一著者の北西滋さんが再解析して論文化してくれたもので,2007年から2009年頃に早川さんが学会発表してきた内容です.
 
 リンク先から論文の内容が見られないという方は,著者の誰かにメールでPDFをリクエストしてください.
 
 
 さて,論文の内容について,図表などを載せて説明したいところなのですが,論文の著作権は日本魚類学会にあって,許可を得て載せるのもめんどいので,すみませんが図表無しで要点を書くと,次のような感じです.
 
 
要点1:日本産オイカワのmtDNAの系統は,大きく3系統(EJ, WJ, KY)に分けられる.
 
 EJ(東日本)系統は,関東地方から中部地方まで分布.
 WJ(西日本)系統は日本中に分布するが,おそらくは琵琶湖水系から九州北部が在来分布.
 KY(九州)系統は,九州固有.
 
 一般的なコイ科魚類のmtDNAチトクロームb遺伝子の分子進化速度(0.76% / million years / lineage)を用いて,BEAST v1.8.1で推定させると,九州(KY)と本州(EJ+WJ)の分岐年代は1.9-4.1百万年,伊吹・鈴鹿山地を境にした東(EJ)と西(WJ)の分岐年代は1.5-3.1百万年.
 
 
要点2:各系統の分布域内での地理的分化も多少は見られる.

 EJ系統の分布域の中では,「関東地方・長野県・静岡県」と「愛知県・岐阜県・三重県」の2地域間でハプロタイプが共有されず,遺伝的に分化しています.ただし,両地域のハプロタイプは相互に単系統になっておらず,他のいくつかの淡水魚で見られるような「フォッサマグナを挟んだ大きな遺伝的分化」は生じていません.
 
 WJ系統の中では,山口県西部から九州北部に固有のサブクレードがあるが,それ以外の琵琶湖水系から瀬戸内海沿岸に顕著な遺伝的集団構造は見られません.
(ただし,この地域に着目した詳細なサンプリングと解析を行えば,瀬戸内沿岸地域の集団構造が見られる可能性はある)
 
 KY系統の分布域内での地理的分化は見られないが,分布域の南側の多様性が高く,九州北部の多様性が低いという違いはあります.
 
要点3:琵琶湖産アユの放流への随伴導入と思われるWJ系統のハプロタイプが全国に見られるが,EJおよびKYも,分布域周辺への移殖などが多少は見られる.
 
 分布攪乱の大きな要因はアユ放流だと考えられますが,それ以外にもオイカワの移殖を目的とした放流も行われていたようです.
 
 
 以下,いくつか重要な補足をしておきます.
 
<大事な補足その1 オイカワの自然分布域>
 
 今回の研究では,オイカワの自然分布について必ずしも明確なことはいえません.水口(1990)が聞き取り調査をもとにオイカワの自然分布域を推定していますが,今回の結果は,それと矛盾しないため,「とりあえず」水口(1990)のオイカワの自然分布域を正しいと仮定して議論しています.
 
 しかし,本当に,信越地方や北陸地方,山陰地方,四国西部,九州南部は移殖分布なのか,というと,何とも言えません.

 たしかに,伊豆には天竜川からオイカワが移殖されたという聞き取り結果があり,ハプロタイプの分布も天竜川由来を示しています.九州内では,オイカワがいろいろな河川間で移殖されているという漁協への聞き取りの結果もあります.そうすると,各系統の分布域周辺への移殖がしばしば生じていて,その結果として信越地方のEJ系統や九州南部のKY系統の分布が見られるということも十分考えられますが,自然分布を否定するのも難しいように思われます.
 
 こうした地域のオイカワの在来性の検証は,それぞれの地域の自然史に詳しい方が,詳細に調べなければ結論は出せません.
 
 
<大事な補足その2 撹乱の現状>
 
 オイカワの移殖による分布撹乱ですが,この論文では全国にWJ系統が広がっていることを示しました.しかし,各地域の全てのオイカワが遺伝的に撹乱されてしまったのかどうかは,まだわかりません.魚の遡上を阻む堰堤によって本流から隔離された河川などに,各地域在来のオイカワが純系を保っているかもしれません.
 今後は,各地域で,撹乱されていない在来オイカワの分布を調べて,必要ならば保全するなどの対策へと進めていく必要があるでしょう.
 
 
<大事な補足その3 オイカワ3系統は(まだ)別種や別亜種とはいえません>
 
 この研究で,日本のオイカワは大きく3系統に分かれることが示されましたが,これをもって「オイカワも将来的に3種(もしくは3亜種)になる」と考える方がいたら,それは早計です.
 少なくとも,関東地方の主要河川では在来オイカワ(EJ)と外来オイカワ(WJ)が完全に雑種化していることがマイクロサテライト分析で示されていますし(一般書籍としては「見えない脅威“国内外来魚”」の第6章参照のこと),おそらく3つの地域系統の間で生殖隔離は無いと考えられます.九州系統については不明なので,もう少し研究は必要ですが,少なくとも現状で「生殖隔離がある」とする根拠は無いため,今のところ「別種」にはならないと考えられます.
 
 では,亜種なのか?というと,そう簡単には決められません.亜種というのは,形態的な地域差が明確な時に,種内の分類単位として使われますが,オイカワの3系統の形態的差異は今のところほとんど知られていません.いずれ3系統を見分けられる特徴が見つかったら,分類されるかもしれませんが,少なくとも現状でオイカワを3亜種と考えるには,まだ根拠が足りません.
 
 
 
 
 以上,ざっくりした解説でした.

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