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2013.04.04

「日本の外来哺乳類」

2012年末の日本生物地理学会会報に「日本の外来哺乳類」という本の書評を書いたのですが,なにぶん目次とか含めて1ページに収まるようにしなければいけなかったので,ここに短縮前の「完全版」(もしくはディレクターズカット版?)の書評を挙げておきます.

日本の外来哺乳類: 管理戦略と生態系保全
山田文雄・小倉 剛・池田 透 (編). 東京大学出版会.2011年.

 外来種が地域の生態系に大小さまざまな影響を与えることは,21世紀の日本においては周知の事実である.実際には何十年も前から生態学者によって外来種の問題が指摘され,啓発の努力はなされてきたが,市民に広く問題が理解されるには,2005年に外来生物法が施行されるのを待たねばならなかったような気がする.法が出来てしまえば行政は従わざるを得ない.行政が動けば,その地域での賛否の議論が生じるだろうし,それによってマスコミや口コミを通して多くの市民が身近な問題として認識することになるので,外来生物法制定の影響は大きかったといえる.

 しかし,それ以前は外国(あるいは他地域)の良いものを積極的に導入して利用しようとする感覚が市民に根強かった.そして,導入された動植物は産業として成り立たなくなれば野外に放逐されてきた.

 外来哺乳類の多くは,そのような人間の身勝手に由来する.私設動物園の閉鎖で放逐されたタイワンザルやアカゲザル,ペットとして大量に輸入されたにも関わらず飼いきれないとして全国で放逐されたアライグマ,戦時中に毛皮用として養殖されたがその後放逐されたヌートリア,奄美や沖縄の山地に捨てられたノネコも人間の身勝手によるものである.意図的に野外に放されたマングースやシベリアイタチ,ノヤギもいる.

 こうした動物はかわいそうではあるが,放置することで在来生態系に多大な影響を及ぼすことになる.特に哺乳類は活動的で多くの餌を必要とすることから,生態系の様相を大きく変える生態系エンジニアである.ノヤギによって植生が失われて裸地化した小笠原諸島の映像などを見た人もいるだろう.ネズミ類も,意図的に導入されることはないものの,哺乳類の存在しなかった島嶼に船荷にまぎれて侵入して繁殖すると海鳥の卵を大量に捕食することもある.また本書では触れられていないが,イースター島の巨石文明が滅びた原因の一つとしてナンヨウネズミの侵入による森林の更新阻害も影響したとする説もある.

 これらの外来哺乳類による被害が顕在化してから場当たり的に捕殺していたのでは,被害はいつまでも続くだけでなく,駆除される外来哺乳類の個体数も増え続けるだけである.最小限の駆除個体数で根絶,もしくは被害を抑えられるように個体数を低減させるためには,早い段階で戦略的に充分な努力投資をしなければならない.

 しかし,どのような戦略なら良いのか? どれだけの人的・予算的な投資が必要なのか? 2000年代前半に外来種が日本国内で一般に広く認識され始めた段階では,和歌山県のタイワンザル対策や,奄美・沖縄のノネコ・マングース対策など喫緊の課題がありつつも,先の見えない状態で動物愛護団体などとの軋轢を生じながら研究者,行政,市民の協力のもとに努力が続けられてきた.

 この本は,教科書的な概論ではなく,そうした実践の歴史を記した“戦記物”である.もちろん,各章の執筆者は科学者として冷静に事実を記しており,いたずらに感情をあおるものではない.しかし,本書を通じて感じるのは,「絶対に成功させるという強い意志」を持ち,「確固たる科学技術を基盤として,揺るぎない信念のもとに外来生物対策を進めて」いった努力と成果の重要性である.タイワンザル対策も,ノネコ・マングース対策も,現在ではかなりの成果が上がっている.繁殖力の強いクマネズミ対策も,海外での根絶事例などをもとに戦略的に対策が取られている.そうした成果が得られるという事実の存在が,他の事例を進めていく力にもなる.

 400ページを超える専門書は読破するのが辛い場合もあるが,本書は全体的に読みやすくなるように十分に配慮して執筆されているため,多少の生態学の知識があれば哺乳類の専門家でなくとも簡単に読破できる.哺乳類以外を対象とする保全生態学の研究者や,ナチュラリスト,外来種も含めた野生生物管理にたずさわる行政担当者にもお勧めの一冊である.確実に知恵と勇気を分けてもらえるだろう.

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