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2013.04.08

魚と生命と

ここしばらくの間に,読んだ本の紹介をしときます.

「森の『恵み』は幻想か 科学者が考える森と人の関係」 蔵治光一郎 著.化学同人.2012年.

 水源もしくは治水のために山林が重要だとされていて,緑のダムとかいろいろと言われている森林の,水に関する作用に注目して説明している本.

 漠然としたイメージとして,森があれば大雨が降っても洪水になりにくく,雨が降らなくても川の水が枯れないと考えられていることが多いのですが,実はそれは作られた神話であって,実際はそれほど単純なものではないということが丁寧に説明されています.

 洪水になりにくい理由は,木によって雨水が地上まで到達するのを遅らせる作用や,蒸散などによる蒸発作用などが組み合わさって生じるので,確かに森には治水に役立つ「機能」があるようです.

 しかし,水源として考えた場合は,樹木が土壌中から吸い上げて蒸散させる水量があるために,森林が発達している場所では河川への水の流入量が減ることが,さまざまな実験等を通じて明らかになっているようです.ですから,はげ山だった場所に植林して森になると,その下の河川流量は減ることになります.

 実際に誤解されていたり,書き方一つで新たな誤解を生む内容だけに,非常に慎重に説明されていますから,正直読みやすさという点ではイマイチなのですが,河川を知るために森のことを勉強しておくための最初の一歩にはなるかと思います.

「科学随筆文庫20 魚と生命と」 丘英通・末広恭雄・檜山義夫 著.株式会社學生社.1978年.

 2011年の魚類学会でのオークションで買った本.2010年の時から出品されていたようで九州方面から流れてきた模様.こういう昔の学者の中には文章のうまい人がいて,本当におもしろい随筆があったりします.

 特にこれといって新しい知見があるわけではありませんが,自然と触れ合う楽しさが伝わってきて心地よいです.また,初出は昭和初期の文章もいくつかありますが,内容的には古くありません.ルイセンコとか出てくるのは時代を感じさせますが,決してそれに傾倒しているわけでもなく,冷静に見ているところなどは,すばらしいですね.

 3名の方の随筆集なので,それぞれにカラーが違いますから,それもまた良いです.こういう古い良いものが,消えてしまうのはもったいないので,研究論文以外の周辺資料もどこかにまとまっているといいのですが……

「タマゾン川 多摩川でいのちを考える」 山崎充哲 著.旬報社.2012年.

 小学校高学年でも読めるようにと書かれた本だと思いますが,そのすさまじい内容は,魚好きの人は全員読むべし,というくらいのものです.ア●ゾンのレビューはお気楽なことばかり書かれてますが,熱帯魚飼育や外来魚についての実際を知っていると,気楽に読み流せるような本ではありません.

 大都会を流れる多摩川が,どれほどのヒトのエゴにさらされているのか,そして,それを前にして諦めたり投げ出したりしない著者の山崎さんの強さにも感動をおぼえます.

 「多摩川のおさかなポスト」はマスコミでも取り上げられているので,その存在くらいは知っている人が多いと思いますが,この本を未読の魚好き,自然好きの人は,是非読んで衝撃を受けてください…

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