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April 2013

2013.04.28

亀岡市アユモドキ問題 これまでのまとめ

京都府亀岡市において,アユモドキの生息地にサッカースタジアムを建設するという計画があります.この問題についてちゃんと紹介した文章があった方が良いと思ったので,簡単にまとめてみました.

 なお,亀岡市のアユモドキの生息地保護のために何かできることがしたい,という場合は,次のような手段をご検討ください.

・署名
(電子署名サイトもあります → 天然記念物のアユモドキの生息地破壊につながるサッカースタジアムの建設をやめてほしい!)

・自分の所属する学会等にアクションを起こしてもらうように要望する
(自然保護協会とかWWFJとかって,何か行動してるんでしょうか……何も動きが見えませんが)

・新聞に投書する
(投書がいくつかあると,新聞記者さんもやる気が出るかも)

・京都府,亀岡市に意見を言う
(メールよりも電話がベターなようです.メールは無視されたり届かなかったことにされがち)

 以下,簡単なまとめ.

◆国の天然記念物であり種の保存法指定種のアユモドキ

 アユモドキという淡水魚は日本固有種で,琵琶湖淀川水系から山陽地方にかけて分布していたドジョウの仲間です.その姿は,普通のドジョウとは大きく異なっており,東南アジアには似た姿の魚がたくさんいますが,日本では非常に珍しい姿の魚です.

 現在では,これまでの分布域のほとんどすべてで絶滅し,琵琶湖淀川水系では京都府亀岡市の桂川水系のみ,山陽地方では岡山県の一部地域のみに生息しています.

アユモドキの姿など見るならこちら
NHK ダーウィンが来た「幻の魚が用水路にいた」
京都府レッドデータブック アユモドキ

 アユモドキは,河川本流から支流で生活し,産卵のために水田や氾濫原に遡上します.通常は陸地になっているけれど梅雨時に湿地化する環境が繁殖場所で,日本では昔ながらの水田が繁殖場所になっていました.

 アユモドキは河川から,そのような水田・湿地まで移動するため,

水路が堰で区切られることによって移動ができなくなったり,
水路がコンクリートの三面張りになって,移動中に休んだり産卵前後に生活する環境が失われたり,
圃場整備によって水田と水路の間の落差が大きくなって,水路から水田に遡上できなくなったり,

といった原因で生育・繁殖ができなくなって,今では世界中で2カ所(岡山と亀岡)にしか残っていません

 そのため,国の天然記念物に指定され,なおかつ種の保存法の指定種となっており,採集や飼育,売買が禁止されています.

◆アユモドキの保全活動の現状

 希少魚種の保全については,生息地の環境を維持することが基本となりますが,ごく限られた場所にしか個体群が残っていない場合は,偶発的な事故などによる絶滅を避けるため,飼育下での系統保存や,一度絶滅してしまった場所の環境を復元して放流(再導入)することで,絶滅することを回避するようにしています.アユモドキについて,それぞれの活動は次のようになっています.
(参考 → 魚類学雑誌54巻2号pp.234-238 「シリーズ 日本の希少魚類の現状と課題 アユモドキ」

・生息地の保護

 岡山市と京都府亀岡市では,地元の市民グループと研究者によって生息地の保護活動が続けられてきたため,現在までアユモドキが生息できる状況が続いてきました.

 しかし,亀岡市ではサッカースタジアム建設によって,生息地の環境は大きく改変されます.

・飼育下での系統保存

 アユモドキの飼育下での繁殖は,ホルモン注射によって人工的に成熟させて,人工授精によって受精卵を得ます(参考→ 大阪府立 環境農林水産総合研究所 希少種保護 ).そのため,飼育下での個体の維持は可能ですが,そのような人工的な系統保存を何十年と続けた場合,将来的に野生復帰が可能かどうかは不明です.

 あくまでも,人工繁殖は野生での絶滅に備えた予備的な対策と考えた方が良いでしょう.

・生息地の復元,産卵場所の増設

 アユモドキは河川から水田までつながった広くて多様な環境を必要とするため(ただし,昔の日本にはそのような環境は普通に存在した),人工的にアユモドキの生息環境を造成することは困難で,これまでに生息地を造成できた事例はありません.現在の生息地の近傍に試験的に産卵場所を増設することは可能だと考えられますが,まだ成功事例はありません.

 生息地を維持した上で,隣接する産卵場所の増設さえ成功事例が無い現状で,新規生息地の造成が成功する見込みは,今のところありません.

◆亀岡市における問題

 亀岡市におけるサッカー場誘致の裏事情は,私にはわかりません.

 しかし,亀岡市のアユモドキは琵琶湖淀川水系における唯一残された個体群であり,環境省,文化庁,研究者なども関わって,地元自治体(京都府,亀岡市)の環境担当部局もともに保全活動が行われてきました.それにもかかわらず,そうした関係者には一切相談せず,まずはスタジアムを誘致して,建設が決定されたものとしてしまってから,アユモドキの保護地を新たに作る,ということになっています.

 京都府内でのスタジアム建設については,複数の候補地を挙げさせて,その中で京都府が選定するという形式だったため,候補地として名乗りを上げた亀岡市だけでなく,選定した京都府にも大きな責任があります.

 これらの自治体は,スタジアム建設がアユモドキに及ぼす影響,新たな代替生息地を作るとした場合の成功の見込みなどを,一切専門家に相談せずに(つまり,全く検討せずに),亀岡市でのスタジアム建設を決定したことが,日本魚類学会による公開質問状への回答で明らかです.

→日本魚類学会からの公開質問状京都府の回答亀岡市の回答

その他参考サイト

京都・亀岡 保津川自然倶楽部(ツイッター)

 →京都・亀岡 保津川自然倶楽部さんの京都府回答の解説
 →京都・亀岡 保津川自然倶楽部さんの亀岡市回答の解説

ツイッターのまとめ

亀岡サッカースタジアム建設計画 まとめI
亀岡サッカースタジアム建設計画 まとめII
亀岡サッカースタジアム建設計画 まとめIII
亀岡サッカースタジアム建設計画 まとめIV

亀岡市議会議員 酒井あきこさんのブログ
(ブログ更新記事に関連するものが複数あり)

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2013.04.11

岩波生物学辞典第5版

今どきの若いもんは知らんだろうが,わしらの学生の頃は専門用語を調べるために辞典をつかっておったのじゃ…… などと言いたくなる今日この頃ですが(笑),生物学業界のスタンダード「岩波生物学辞典」が17年ぶりの改訂版になりました!

岩波生物学辞典 第5版. 巌佐庸・倉谷滋・斎藤成也・塚谷裕一 編, 岩波書店.

 一応,ボクも執筆者として名前が入っておりまして,もしかしたら買わなくても送られてくるかなー,と思っていたら,いつの間にか生協書籍部に実物が並んでいたので,執筆者があまりにも多すぎるから著者謹呈は無いのだということにやっと気づきました(笑) と,いうことで著者割価格での購入を発注中.

 ちなみに,4名の編者がいて,その下にさまざまな分野を取りまとめる中間編者が何十人かいて,その中間編者から依頼された執筆者が400人以上いるという構造なので,個々の執筆者に謹呈されるわけがないのは,考えてみれば当然なのですけどね.

 ま,それでも少しは関われてうれしいですし,店頭でちょっと見た限りでは,執筆した新項目もちゃんと掲載されておりました.よかったよかった.

追記:執筆した新項目の一つに「生物系統地理学」があるのですが,ボクとK大のWさんが共同で旧項目のチェックと新項目の執筆をしたのは2010年秋のことです.そのころはウィキペディアに「生物系統地理学」という項目は無く,2012年10月13日に新項目として追加されているのですが,見比べてみると,すごいそっくりでビックリします.(wikiのほうが長いので,前半部分ね)
 解説する上で取り上げるトピックがほぼ同じで,同じような順序で説明が展開しているので,wikiを見て書いたんじゃないかと思われそうなくらいです…… 同じ分野について,同じように詳しい人が書けば,内容が収斂するのは当然だろうけど,こんなに似るとは…
 

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2013.04.08

魚と生命と

ここしばらくの間に,読んだ本の紹介をしときます.

「森の『恵み』は幻想か 科学者が考える森と人の関係」 蔵治光一郎 著.化学同人.2012年.

 水源もしくは治水のために山林が重要だとされていて,緑のダムとかいろいろと言われている森林の,水に関する作用に注目して説明している本.

 漠然としたイメージとして,森があれば大雨が降っても洪水になりにくく,雨が降らなくても川の水が枯れないと考えられていることが多いのですが,実はそれは作られた神話であって,実際はそれほど単純なものではないということが丁寧に説明されています.

 洪水になりにくい理由は,木によって雨水が地上まで到達するのを遅らせる作用や,蒸散などによる蒸発作用などが組み合わさって生じるので,確かに森には治水に役立つ「機能」があるようです.

 しかし,水源として考えた場合は,樹木が土壌中から吸い上げて蒸散させる水量があるために,森林が発達している場所では河川への水の流入量が減ることが,さまざまな実験等を通じて明らかになっているようです.ですから,はげ山だった場所に植林して森になると,その下の河川流量は減ることになります.

 実際に誤解されていたり,書き方一つで新たな誤解を生む内容だけに,非常に慎重に説明されていますから,正直読みやすさという点ではイマイチなのですが,河川を知るために森のことを勉強しておくための最初の一歩にはなるかと思います.

「科学随筆文庫20 魚と生命と」 丘英通・末広恭雄・檜山義夫 著.株式会社學生社.1978年.

 2011年の魚類学会でのオークションで買った本.2010年の時から出品されていたようで九州方面から流れてきた模様.こういう昔の学者の中には文章のうまい人がいて,本当におもしろい随筆があったりします.

 特にこれといって新しい知見があるわけではありませんが,自然と触れ合う楽しさが伝わってきて心地よいです.また,初出は昭和初期の文章もいくつかありますが,内容的には古くありません.ルイセンコとか出てくるのは時代を感じさせますが,決してそれに傾倒しているわけでもなく,冷静に見ているところなどは,すばらしいですね.

 3名の方の随筆集なので,それぞれにカラーが違いますから,それもまた良いです.こういう古い良いものが,消えてしまうのはもったいないので,研究論文以外の周辺資料もどこかにまとまっているといいのですが……

「タマゾン川 多摩川でいのちを考える」 山崎充哲 著.旬報社.2012年.

 小学校高学年でも読めるようにと書かれた本だと思いますが,そのすさまじい内容は,魚好きの人は全員読むべし,というくらいのものです.ア●ゾンのレビューはお気楽なことばかり書かれてますが,熱帯魚飼育や外来魚についての実際を知っていると,気楽に読み流せるような本ではありません.

 大都会を流れる多摩川が,どれほどのヒトのエゴにさらされているのか,そして,それを前にして諦めたり投げ出したりしない著者の山崎さんの強さにも感動をおぼえます.

 「多摩川のおさかなポスト」はマスコミでも取り上げられているので,その存在くらいは知っている人が多いと思いますが,この本を未読の魚好き,自然好きの人は,是非読んで衝撃を受けてください…

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2013.04.04

「日本の外来哺乳類」

2012年末の日本生物地理学会会報に「日本の外来哺乳類」という本の書評を書いたのですが,なにぶん目次とか含めて1ページに収まるようにしなければいけなかったので,ここに短縮前の「完全版」(もしくはディレクターズカット版?)の書評を挙げておきます.

日本の外来哺乳類: 管理戦略と生態系保全
山田文雄・小倉 剛・池田 透 (編). 東京大学出版会.2011年.

 外来種が地域の生態系に大小さまざまな影響を与えることは,21世紀の日本においては周知の事実である.実際には何十年も前から生態学者によって外来種の問題が指摘され,啓発の努力はなされてきたが,市民に広く問題が理解されるには,2005年に外来生物法が施行されるのを待たねばならなかったような気がする.法が出来てしまえば行政は従わざるを得ない.行政が動けば,その地域での賛否の議論が生じるだろうし,それによってマスコミや口コミを通して多くの市民が身近な問題として認識することになるので,外来生物法制定の影響は大きかったといえる.

 しかし,それ以前は外国(あるいは他地域)の良いものを積極的に導入して利用しようとする感覚が市民に根強かった.そして,導入された動植物は産業として成り立たなくなれば野外に放逐されてきた.

 外来哺乳類の多くは,そのような人間の身勝手に由来する.私設動物園の閉鎖で放逐されたタイワンザルやアカゲザル,ペットとして大量に輸入されたにも関わらず飼いきれないとして全国で放逐されたアライグマ,戦時中に毛皮用として養殖されたがその後放逐されたヌートリア,奄美や沖縄の山地に捨てられたノネコも人間の身勝手によるものである.意図的に野外に放されたマングースやシベリアイタチ,ノヤギもいる.

 こうした動物はかわいそうではあるが,放置することで在来生態系に多大な影響を及ぼすことになる.特に哺乳類は活動的で多くの餌を必要とすることから,生態系の様相を大きく変える生態系エンジニアである.ノヤギによって植生が失われて裸地化した小笠原諸島の映像などを見た人もいるだろう.ネズミ類も,意図的に導入されることはないものの,哺乳類の存在しなかった島嶼に船荷にまぎれて侵入して繁殖すると海鳥の卵を大量に捕食することもある.また本書では触れられていないが,イースター島の巨石文明が滅びた原因の一つとしてナンヨウネズミの侵入による森林の更新阻害も影響したとする説もある.

 これらの外来哺乳類による被害が顕在化してから場当たり的に捕殺していたのでは,被害はいつまでも続くだけでなく,駆除される外来哺乳類の個体数も増え続けるだけである.最小限の駆除個体数で根絶,もしくは被害を抑えられるように個体数を低減させるためには,早い段階で戦略的に充分な努力投資をしなければならない.

 しかし,どのような戦略なら良いのか? どれだけの人的・予算的な投資が必要なのか? 2000年代前半に外来種が日本国内で一般に広く認識され始めた段階では,和歌山県のタイワンザル対策や,奄美・沖縄のノネコ・マングース対策など喫緊の課題がありつつも,先の見えない状態で動物愛護団体などとの軋轢を生じながら研究者,行政,市民の協力のもとに努力が続けられてきた.

 この本は,教科書的な概論ではなく,そうした実践の歴史を記した“戦記物”である.もちろん,各章の執筆者は科学者として冷静に事実を記しており,いたずらに感情をあおるものではない.しかし,本書を通じて感じるのは,「絶対に成功させるという強い意志」を持ち,「確固たる科学技術を基盤として,揺るぎない信念のもとに外来生物対策を進めて」いった努力と成果の重要性である.タイワンザル対策も,ノネコ・マングース対策も,現在ではかなりの成果が上がっている.繁殖力の強いクマネズミ対策も,海外での根絶事例などをもとに戦略的に対策が取られている.そうした成果が得られるという事実の存在が,他の事例を進めていく力にもなる.

 400ページを超える専門書は読破するのが辛い場合もあるが,本書は全体的に読みやすくなるように十分に配慮して執筆されているため,多少の生態学の知識があれば哺乳類の専門家でなくとも簡単に読破できる.哺乳類以外を対象とする保全生態学の研究者や,ナチュラリスト,外来種も含めた野生生物管理にたずさわる行政担当者にもお勧めの一冊である.確実に知恵と勇気を分けてもらえるだろう.

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