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2012.11.29

外来魚駆除とウシモツゴ

ウシモツゴ増殖 関のNPO成功 絶滅危惧種が生息域拡大(2012年11月28日 中日新聞夕刊)

http://eco.chunichi.co.jp/news/2012/11/001293.html

 先日池干し外来魚駆除を行った関市の中池についてのニュースです.

 

 なんだかボクのコメントが言葉足らずなので(苦笑),少し補足説明をすると,絶滅危惧IA類とされている絶滅危惧種の中で,人為的な放流をおこなった場所から,さらにその周辺に分布を拡大した例は珍しい,という意味です.

 ただ,この記事のもとになったコメントを記者さんに言った後で,ハリヨも絶滅危惧IA類だったことに気付いたので,ハリヨも放流場所から広がってるんじゃないかなぁ……と,いまさらウッカリコメントだったことを反省中.

 他にも,淡水魚の保全に関わる方々や,興味のある皆さんへの補足情報を.

◆元になった観察池.

 淡水魚の放流というのはナイーブな問題をはらんでいます.移動能力に乏しい淡水魚は地理的に分化していることが多く,わずかな距離でも遺伝的に違っている場合があります.遺伝子が違うということは,顔つきや行動,病気への強さなどいろいろな面で違っている可能性を意味していますから,それぞれの地域に住む個体群を尊重して保全する必要があります.

 記事を見ると,別の池から放流した観察池がソースになっていると書かれていて,それは事実ではありますが,むやみやたらと違う場所からウシモツゴを持ってきているわけではありません.

 岐阜県ではすでに数カ所しかウシモツゴの野生個体群は残っておらず,それぞれの場所は離れています.今回のウシモツゴは,その残された生息地の一つに由来する個体を系統保存のために繁殖させて放流した観察池ですが,こうした活動は元の生息地から,あまり遠くない範囲内に限定しています.

 模式的に描くと,こんな感じです.

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 これは,現在出版準備中の本の中で,ボクが担当する章に入れるために描いた図です.関市でのウシモツゴの放流は,あくまでも,残っていた野生個体群の一つを範囲内に含み,大きな河川を越えず,尾根も越えない,数キロ四方程度のランドスケープの中で行うようにしています.

 この範囲内には,元となった一か所の野生生息地以外にウシモツゴは残っていないことが充分確認されているので,未発見の個体群を遺伝的にかく乱することは無いと思われます.また,大きな河川を挟んで反対側には別の野生生息地があるのですが,遺伝的に異なる可能性があるので,原則的に対岸には持ち込まないようにしています(実際は,この原則が破られた部分もあるので苦慮しているのですが…)

 ため池のような止水域に生息するウシモツゴとはいえ,大昔から個々のため池(のような湿地)にすべて孤立して生息していたわけではありません.ある程度は水路伝いに分散して交流していたはずなので,元々遺伝的に交流していたであろう範囲に個体群を復元していくのが望ましいと考えられます.

 安直な推論としては,「じゃあ,同じ水系ならOKですね!」と思われそうなのですが,いろいろな淡水魚の遺伝的解析データがそろってくると,同じ水系の同種でも支流によって異なる遺伝的組成を持つ場合があることが見えてきます.ですから,長良川水系ならどこでもOK,なんていう考えをするわけにはいきません.

 予防原則として,なるべく放流可能範囲は過小に見積もり,放流活動によって自然を乱さないようにするのがベターな選択であって,理想的には残された生息地の周辺の環境を改善し,人為的な放流無しに自然に分布域が拡大するのを待つべきです.

 しかし,残された1カ所の生息地に,もしもブラックバスが放流されてしまったら? もしも経年的に落ち葉や水草の枯死体が溜まって水質悪化で魚が住めなくなっていったら? それによって,残された個体群が絶滅し,二度とその地域のウシモツゴが見られなくなるというのは,さすがに避けたいところです.

 ですから,本来ウシモツゴが自然に分散可能な範囲を明らかにして,その範囲内で,もしもの時の保険となるようにビオトープなどを利用した系統保存と,放流による若干の生息地の拡大をおこなうということをしているわけです.

 決して,あちこちにウシモツゴをばらまいて,どんどん生息地が増えていけばそれでいいなどというものではありません.

◆外来魚の問題

 ウシモツゴの生息地が,ほとんど残っていない原因の一つは,オオクチバス(ブラックバス)の放流です.関市のウシモツゴの生息地の周りも,ほとんどのため池にオオクチバスとブルーギルが放流されていたので,それらを駆除して,ウシモツゴの生息地の復元がおこなわれています.

 関市に限らず,各地で池干しによるバス・ギルの駆除が行われていて,なるべくそうした場に参加して捕獲されたバス・ギルの体長組成や遺伝的組成,池干し後の状況のデータを集めていたのですが,ほとんどの場合,池干しすれば翌年はオオクチバスが根絶もしくは激減していることが確認されます.

 しかし,中池は,これまでのどの池とも違っていました.

 約20年ぶりに池干しが行われたのが2009年のこと.大量のコイとゲンゴロウブナ,ブルーギルとともに,1338尾(約100kg)のオオクチバスが捕獲されました.これで翌年は,また違法放流されたとしても数尾くらいだろう,と高をくくっていたのですが…

 翌2010年の池干しでもオオクチバス953尾(約70kg),さらに2011年の池干しでもオオクチバス1042尾(約100kg)が捕獲されました.

 つまり,全くオオクチバスが減少せず,個体数と重量を見れば分かるように,体長組成もほとんど変わらないという,他の池干し事例からは考えられない状況で,地元の不道徳な釣り人による違法放流ではなく,1000尾規模での大規模違法放流が毎年行われていると考えられました.

 しかし,今は外来生物法があり,特定外来種であるオオクチバスは飼育も販売もできないはずです.それなのに大規模違法放流なんてことがあり得るのかと,あらためて情報を集めてみると,ウェブには管理釣り場が「バス大量放流」と謳っており,さらに環境省の認可も容易にくだされてきたことがわかったので,2010年代になってもオオクチバスの放流種苗は流通しており,大規模違法放流は可能ということがわかりました.

 そのようなことを2012年1月の外来魚情報交換会で発表して,もはや生ぬるい予防だなんだという対策ではなく,犯人が確実に逮捕されるようにしようと,いろいろ画策していたのですが,その結果,上の新聞記事にあるように今年のオオクチバスは激減して,個体数はわずか8尾でした.干しても干しても,毎年大きなオオクチバスが1000尾くらい獲れていたのが,いきなり8尾です!

 池の干し方は工夫せず,大規模違法放流が今でも横行していることを,なるべく多くの人に納得してもらえるように発表した以外に,何の操作も加えていません(笑)

 もちろん,外来魚情報交換会とは無関係に,ただ単に地元の皆さんの粘り勝ちだったのかもしれません.

 原因はどちらでもいいです.

 結果的に,オオクチバスがわずかしかいない年は,在来魚に満ちており(新聞記事には書かれていませんが,ものすごい数のオイカワ,ヌマムツ,タモロコ,スジエビ,多少のトウカイヨシノボリ,ドジョウが採れていました.なるべく殺さないようにするために個体の計数は今回はしませんでした),ウシモツゴも500尾以上いたわけです.

 このウシモツゴの由来は,記事の通り上流の観察池のものですが,オオクチバスの排除さえ進めば,ウシモツゴの人為的放流は最小限にしても,自然に水路を通じた個体群の増加が見込める目途が立った事例だといえます.

◆まとめ

 長文になったのでまとめます.

・関市でのウシモツゴの放流は範囲を限って慎重に行っているので,無秩序なばらまきではありません.

・オオクチバスの大規模違法放流は現在も横行しているが,駆除努力をあきらめない方が良いでしょう.

・個々のため池だけでなく,地域的にオオクチバスの排除に成功すれば,希少魚種の生息状況が回復し,自然な分散で個体群が広がる可能性が示されました.

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