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2012.01.20

北日本メダカの新種記載

いつのまにか,メダカ北日本集団が新種記載されてました.

Toshinobu Asai, Hiroshi Senou and Kazumi Hosoya (2011) Oryzias sakaizumii, a new ricefish from northern Japan (Teleostei: Adrianichthyidae). Ichthyol. Explor. Freshwaters, Vol. 22, No. 4, pp. 289-299.
 

 英名はNorthern medakaということですが,和名はまだ付けられていません(なんでかな?).

 以前にメダカ Oryzias latipesとされていたものは,次のようになります.

Oryzias latipes (メダカ南日本集団.和名メダカ?)
Oryzias sakaizumii (メダカ北日本集団.新和名は未公表)
Oryzias sinensis (メダカ中国ー西韓集団.和名無し)
Oryzias sp. (メダカ東韓集団.和名無し)

 まだちゃんと読んではいないのだけど,豊岡や久美浜,網野のハイブリッド集団は形態からO. sakaizumiiとしているみたいですね.しかし,パラタイプに豊岡のサンプルが含まれているのに,タイプ標本の採集地の地図(Fig. 6)には豊岡の位置に印がないような? それに,本文ではmtDNAもこれらのハイブリッド集団は北日本だと書いてあるけれど,久美浜や網野は南日本のmtDNAなんですが…

(追記:ハイブリッド集団のことなどは,酒泉(1987)などを見直して書き直しました. 1/21)

 それと,形態的にはメダカ東韓集団はO. sakaizumiiと同じクレードとか書かれてるんですけど,形態的に類似しているだけで,アロザイムとmtDNAは全然違うし,体表の黒点の入り方も卵サイズも全然違うから,計数形質とかだけで判断するのはやめてほしいです.本文では東韓集団をO. sakaizumiiもしくは名前の付けられていない種,とされてますが… 分子系統の結果の中で,自説に都合の良いところ(南日本と北日本メダカは遺伝的に大きく異なる)は使って,都合の悪いところ(南日本と北日本は遺伝的には単系統で,東韓集団は日本産2種よりも遺伝的には,はるかに大きく異なる)は無視して…みたいな,すごく不安を感じさせる内容だな~,と思ったりします.

 名前をつけるのは,すごく大事なことですし,分類学の必要性や重要性は認めているつもりなのですが,だからこそ,科学としてダメ出しせざるを得ないようなことだけは,しないようにしてほしいと切に願っております.できることなら,他人の批判とか,否定とかしたくはないのですよ.

追記: 上で消した部分について.(1/27)

ちゃんと論文を読み返すと,背鰭の第5軟条と第6軟条の間の切れ込みの深さと黒色素胞の密度から東韓集団とO.sakaizumiiは同じクレードになるので,東韓集団はO. sakaizumiiの亜種か,あるいは別種,というふうに書かれていますね.そして,両者は臀鰭の黒点と尾柄の黒色素の密集の有無で区別できるということです.

 と,いうことで,別の分類群として認識しているのは確かで,特に分子系統的なことには言及していないわけですが,それならばイントロで北日本と南日本の遺伝的分化が古くて云々,ということをそれほど強調するまでもないわけです.アロザイムとmtDNAをもとにした遺伝的解析では,メダカO. latipesと呼ばれていたものは4群とされている,ということで充分であり,北と南の遺伝的分化の深さを別種とする根拠に結びつけるならば,東韓と日本産2種の遺伝的分化の深さもそれなりに考慮したほうがよいでしょう.(Takehana et al. 2005では,核遺伝子のtyrosinase遺伝子も解析されていますが,そちらは変異が少なすぎてO. latipesグループ内のことについて議論できるほどのデータではない)

 別に論文の内容全体を否定しているわけではないのですが,どうも記述の不備(形態の記載の不備という意味ではなく,論文としての体裁の問題)などが目に付きます.

 それと,直接受け取ったわけではないのですが,このブログの内容に対してエライ先生から感情的な(罵詈雑言で?)御批判をいただいたらしいです.上記の書き直した部分のように,ちゃんと読まずに書いていた部分は申し訳なく思います.ただし,分子系統や集団遺伝解析の結果から,都合のいいところだけつまみ食いしたような印象は変わりません.

 記載分類は,古い標本(昔記載されたタイプ標本など)を用いてもわかるような形態的記載を中心とした実用性が重要だと思います.したがって,形態的に明確な差異のあるものであれば,遺伝的解析の話は本来ならば不要であると思います.そして,形態的差異が微妙であるが,その他の証拠から生物学的に異なる集団であるということが明らかなら,遺伝的解析や行動観察,野生での生態の情報を,「適切に」総合して論じればよいでしょう(必ずしも記載論文の中でではなく,他の論文としてでもかまいません).

 ブログという媒体は,多くの人の目に触れるという意味で過剰反応される方もいますが,それならば「論文」は人の目に触れないようにしているのかといえば,そんなことはありません.科学論文というのは,誰にでも読めるところに公表して,自由に見て,批判なりなんなりするためのものです(執筆者が大学院生だろうとなんだろうと,同等に批判や検証の対象となりうる).それならば,なぜブログが攻撃されるのかといえば,おそらくは「軽口でケチを付けられるのが癪にさわる」のでしょう.論文等に対する批判をする場合は文体を考慮するべきなんでしょうね.

引用文献

酒泉 満(1987)遺伝学的手法によるメダカの生物地理.遺伝1987年12月号(41巻12号),pp.17-22.

Takehana Y, Naruke K, Sakaizumi M (2005) Molecular phylogeny of the medaka fishes genus Oryzias (Beloniformes: Adrianichthyidae) based on nuclear and mitochondrial DNA sequences.  Mol Phylogenet Evol, 36: 417-428.

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