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2011.04.26

よしのぼり

著者から早々に別刷りPDFをいただいていたのですが,フットワークの軽い若い人がブログで紹介してたりするので,鈍重な自分がわざわざ書くまでもないかな,と思ってました.しかし,情報の補足を兼ねてちょっとだけ紹介.
 
 
■MJP van Oijen, T Suzuki, IS Chen (2011) On the earliest published species of Rhinogobius. With a redescription of Gobius brunneus Temminck and Schlegel, 1845. J Natl Taiwan Mus, 64: 1-17.
■鈴木寿之・陳義雄(2011)田中茂穂博士により記載されたヨシノボリ属3種.大阪市立自然史博物館研究報告 65号,9-24.
 
 
 長年,日本産ヨシノボリ属の多くの種の学名が未確定だったのですが,この2編の論文でいくつかの種の有効名が判明しました.多少,えいやっと気合いで乗り切っているところもあるような気がしますが,学名を付けない限りは外国の人とヨシノボリについての適切な情報交換ができなかったわけですから,少々問題が残っていようとも,名前を当てはめておくのは大切です.そうでないと,日本の魚類研究者は個々のヨシノボリを別種であるという前提で研究しているのに,外国の研究者は同種内の話だと思ってしまうので,話が噛み合わないし,研究の価値が理解されないような感じのままでした(個人的な経験では,ですが).
 
 
 さて,そんなわけで,和名学名の現状.

★まずは確定組.
 
ゴクラクハゼ Rhinogobius giurinus
カワヨシノボリ Rhinogobius flumineus
クロヨシノボリ Rhinogobius brunneus
オオヨシノボリ Rhinogobius fluviatilis
トウヨシノボリ Rhinogobius kurodai
 
※ Rhinogobius brunneus=クロヨシノボリ,というのが,とりあえず確定したのですが外国の図鑑や論文,ウェブページでは,これまで極東のヨシノボリ類(シマ・クロ・オオ・トウ・ルリなど,学名が特定されていなかった全て)の一般的な呼称としてRhinogobius brunneusが慣習的に使われてきたため,今後もしばらくはいろいろな種に対してRhinogobius brunneusが安易に当てはめられた状態が(少なくとも海外では)続くでしょう.
 その間は,さまざまな混乱が予想されますが,研究者やナチュラリストの皆さんが,van Oijen et al. (2011)に基づいて「日本でクロヨシノボリと呼んでいたものがRhinogobius brunneusである」こと,そして,逆は真ならず,「外国でRhinogobius brunneusと呼ばれているのはクロヨシノボリではない可能性が高い」と明確に理解して,正しく学名を使用していけば,いずれは安定するでしょう.
(なお,学名が特定されていない和名のみの種についても,適切な記載を伴う和名を用いることは重要で,他の名前をいたずらに使用して混乱させるようなことは,少なくとも研究者,教員,学芸員等の社会的に責任のある立場の人は自重する必要があります……なんて,いちいち書かなくても,皆さんわかってますよね) 

 
★次に未確定だが名前の見当がついているもの
 
シマヨシノボリ Rhinogobius nagoyae

※ 田中茂穂博士が1908年に記載したCtenogobius katonisは,シマヨシノボリに該当するため,ヨシノボリ属としてRhinogobius katonis (Tanaka, 1908)と呼ぶことができる.しかし,Jordan and Seale (1906)の記載したRhinogobius nagoyaeもシマヨシノボリに該当するのが,ほぼ確実なため,R. katonisはジュニアシノニムとなり,シマヨシノボリの学名はRhinogobius nagoyaeが妥当ということになる(鈴木・陳,2011).
 この意味において,魚類学会のホームページの「シノニム・学名の変更」のところに「シマヨシノボリR. sp. CB(ハゼ科)の学名確定 Rhinogobius katonis (Tanaka, 1908)」と書かれているのは,適切ではありません.
 
 しかし,鈴木・陳(2011)では,シマヨシノボリをRhinogobius nagoyaeとして再記載したわけではなく,和名と学名の対応を論じただけなので,まだ確定には至っていない.(ややこしいですねsweat01
 
(4/30追記:「シノニム・学名の変更」該当ページの記述は削除されました.論文中の書き方が紛らわしかったので仕方ないとは思いましたが)
 
 
★未確定で,根拠も明確ではないが,対応する可能性があるもの. 

ルリヨシノボリ Rhinogobius similis
  
※5/5改訂追記:similisのホロタイプがルリヨシノボリだとする根拠は無いが,ホロタイプの標本が失われてしまったことが確実な場合,同産地の標本をネオタイプとして指定することができる.その場合,similisの模式産地で採集されたルリヨシノボリの標本をネオタイプとして指定することには重要な意味がある.
 
 たとえば,ヨシノボリ類の最古の学名であるsimilisを正体不明な状態にしておいた場合,すでに学名が確定したはずのヨシノボリ類や,今後新種記載される種の学名が,今後もずっとsimilisのジュニアシノニムとして消え去る可能性を残すことになる.しかし,similisをルリヨシノボリとしてネオタイプを登録,記載すれば,ルリヨシノボリとは別種であることが明らかな他のすべてのヨシノボリ類の学名は,similisのジュニアシノニムとして消え去ることは無くなり,学名が安定する.
 
 したがって,similis=ルリという根拠は無いが,命名規約上はルリヨシノボリをsimilisとして再記載することは可能であり,学名の安定性に貢献するという点で非常に重要かつ有用な作業である.
 
 
 
★有効名との対応が不明で,未記載種の可能性もあるもの
 
アオバラヨシノボリ Rhinogobius sp. BB
アヤヨシノボリ Rhinogobius sp. MO
オガサワラヨシノボリ Rhinogobius sp. BI
キバラヨシノボリ Rhinogobius sp. YB
シマヒレヨシノボリ Rhinogobius sp. BF
トウカイヨシノボリ Rhinogobius sp. TO
ヒラヨシノボリ Rhinogobius sp. DL
ビワヨシノボリ Rhinogobius sp. BW
 
 
 ということで,なんとなくスッキリしはじめた感はありますね.
 
 
◆しかし,ここで,懺悔.
 
 鈴木・陳(2011)にしても,今年の3月に発売された「釣魚1400種図鑑 海水魚・淡水魚完全見分けガイド」(小西英人著,エンターブレイン)にしても,日本産ヨシノボリ類(特にトウヨシノボリ類)のmtDNAの系統解析の結果をもとに○○系という言葉で説明がなされています.
 その根拠となるデータは,ボクの手元にあって,ずいぶん前に学会発表して,また一部の情報を「淡水魚類地理の自然史」の中で小出しにしただけで,全く公にしていません.
 論文としての公表が遅いせいで,このような論文や本の中に中途半端に紹介される形になったのは,すべてボクの責任です.本当に,世間に顔向けできないですね…
 
 ただ,言い訳をさせていただくと,データを増やせば増やすほど系統樹がカオスになってくるのです.もはや,あえてトウヨシノボリ類のデータだけに限定して論文にするように方針を変えないと,たぶんまとまらないな…
 

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