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2009.07.18

メダカの分岐年代【批判的意見です】

2009年7月15日のアサヒより
南北日本のメダカ、見た目より遠縁 1800万年前分岐


元論文はこちら
Davin H. E. Setiamarga, Masaki Miya, Yusuke Yamanoue, Yoichiro Azuma, Jun G. Inoue, Naoya B. Ishiguro, Kohji Mabuchi and Mutsumi Nishida. Divergence time of the two regional medaka populations in Japan as a new time scale for comparative genomics of vertebrates. Biology letters, in press (doi:10.1098/rsbl.2009.0419)


◆世話になった方々の論文なので批判的なことを書くのは気が引けるのだけど,でも,やはり,違うだろうと思うところは,ちゃんと書き残しておくべきかな,と思った次第です.

◆さて,上記の論文のウリは,メダカの北日本集団と南日本集団の分岐年代が,これまで考えられていたよりも,ずっとずっと古いという推定値が出たところにあります.

 以前の北日本メダカと南日本メダカの分岐年代の推定値は,アロザイム分析の時は200〜300万年,mtDNAのCyt b遺伝子などを使っていたときは約400-500万年,今回のmtDNA全塩基配列を使った場合は1800万年ということになっています.

 また,アロザイムとCyt b遺伝子の時の分岐年代推定は,他の生物で推定されていた分子進化速度を単純に適用しています.しかし,この論文ではさまざまな魚類を含めた系統樹を推定し,その系統樹上で化石記録から分岐年代が推定できる較正点を27箇所設定し,系統樹の各分岐点の年代を推定したものです.

 塩基配列の長さ(データ量)も圧倒的に多いし,系統樹に較正点を多数置いてベイズ推定するという手法も近年の新しい方法なので,いかにも最新のデータ,最新の手法でやりました!っていう感じが満載です.


 でも,しかし!

 元論文を見ると,較正点が全部古い年代のものばかりです.一番年代の新しいもので9000万年くらいです.そうすると,いくら較正点が多くても,それはおよそ1億年より古い時代の分岐年代推定の精度を高めているだけじゃないのかという気がします.

 模式的に描くと↓こんな感じ.
1
 
 
 原点と較正点の間をスムーズにつなぐように塩基置換率と分岐年代の関係を表したのが赤い曲線です.一方,これまでに分子進化をかじったことがある人ならおなじみの,急激に塩基置換が蓄積して,その後にゆるやかに塩基置換が増えていくのが青い曲線です.

 ボクは分岐年代のベイズ推定には詳しくないので誤解があるのかもしれませんが,古い較正点のみ使ったときに,原点に近いあたりの(分岐年代の新しい種間の)塩基置換パターンが赤色と青色の,どちらのカーブに近いのか,正確に推定できるのでしょうか?

 たぶん,古い較正点のみの時は,新しい時代の部分は未知なので,較正点のある領域からスムーズに原点につながるような塩基置換モデルが選択されるでしょう.急激な塩基置換の蓄積は,経験的なイメージとして存在していても,使用するデータセットの中では「どれくらい急激な塩基置換の増加なのか」を決定するデータが無いからです.

 したがって,おそらくメダカの古い分岐年代は,この模式図の赤色曲線から推定された値(のようなもの)ではないかと思います(上図の推定分岐年代1).

 一方,これまでの推定値について考えてみます.北日本と南日本のメダカのこれまでの分岐年代の推定値は,近縁種や種内地域集団間の地理的分断をもとに推定された分子進化速度を適用しています.つまり,もともと分岐の新しいものを対象に推定された分子進化速度であり,上の模式図の中では,青色曲線の原点に近い傾きの急な部分を使った推定値のようなものです(上図の推定分岐年代2).

 このように考えると,いくら「最新」の手法であったとしても,「南北メダカの分岐が1800万年」というのは,現時点では信頼できない値だと思います.ようするに,近縁な種の分岐年代を推定したいなら,推定したい分岐点を挟むような年代に較正点をおかないとダメじゃないか,と思うわけです.

 特に,500万年くらいの時間スケールと比べれば,今回の較正点の9000万年〜4億年というのは,約20倍から800倍も長い時間スケールです.喩えるなら,100km単位まではだいたい正確に描かれている4000km四方の地図(日本地図をやや周辺まで含めたくらい)の中で,ある2地点間の距離が5kmなのか20kmなのか判断しようとしているといったところでしょうか.描線の太さだけですぐに違ってきそうです.5kmや10kmの距離のものを調べたいなら,都道府県の地図とか市町村の地図を探した方が良いでしょう.

 他にも,この論文の論理展開とかが,ものすごく確証バイアスがかかっていて,ちょっと……と思うのですが,いずれにしても,あの分岐年代推定は間違っているのではないか,と思うならば,自分で新しい年代の較正点を使った論文を書くしかないでしょうね….

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