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2005.12.16

「害虫殲滅工場」と雑感

害虫殲滅工場-ミバエ根絶に成功した沖縄の奇蹟

しばらく前の出張中に読んだ本です.

 沖縄のウリミバエ根絶については知っている人も多いと思うのですが,ぼくが大学で担当している「動物生態学」の授業でも個体群生態学の説明として「プロジェクトX」のウリミバエ根絶の話を使ってます.去年と今年の二年続けて使ったんですが,やはり背景をもっとちゃんと知っておかねばと思って,ようやく,この本を読んだわけです.

 その結果,プロジェクトXがかなり事実を改変してるなぁ,ということがわかったんですが(笑),そんなことよりも沖縄で実際に行われたミバエ根絶事業の凄まじさに「これは果たして事実なのか? SFじゃないのか?!」と驚きを禁じえませんでした.著者の小林照幸氏の筆力も大きいと思うのですが,やはりそれ以上に現実の凄みがあるでしょう.

 自分個人としては昨今の外来種問題にわずかながら関わることがあり,ブラックバス問題の状況と比較しつつ読んだ面もあるのですが・・・明らかな農業害虫であり,誰一人ミバエの存在を望まない,産業に直接の悪影響のあるミバエ根絶事業でさえ,一般の人たちに理解してもらうのに如何に苦労したか,様々な人がどれほど粘り強く取り組まねばならなかったのか・・・

 また,沖縄におけるミバエの場合は,あくまでも害虫vs.人なのですが,ブラックバスなどは自然水域からの排除を妨害する人たちがいるので,それを思うと本当に嫌な気持ちになります.ミバエ根絶事業においても,ミバエがついているから果実や野菜の移動が禁止されているのに,それでもこっそりと持ち運ぶ人がいて飛び地的に突如ミバエが出現するという問題があったようです.野菜に偶然ついている虫ですら問題なのに,積極的に密放流されるブラックバスが,如何に面倒な外来種であるかということです.

 さて,そうはいっても,この本はやはり驚異的な事実を記した優れたノンフィクションであり,多くの人に読まれるべきものだと思います.特に,外来種対策に心を痛める多くの人たちには必読の書だと言っていいでしょう.たしかに,ミバエ対策のようにうまく行く例はほとんどないかもしれません.しかし,ミバエ根絶事業も,ムリだとあきらめなかったからこそ実現できたのです.そうした勇気を分けてもらえる本だと感じました.

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 それから,今日(12/16)の「環境保全論II」の講義で化学物質による汚染の話をして,次回から外来種による生物学的汚染の話をする,と言って物理的環境改変や化学的汚染とは異なる問題だというさわりだけ説明しました.
そうしたところ,授業の感想(毎回質問用紙を配って質問または感想を書いてもらっている)に,以前バス釣りをしていたという学生が,外来種を駆除するにしても生命倫理と在来種の保護を考慮しなければならないので一概には決められないと思う,という意見を書いてました.

 ハエの殲滅には決して出てこない意見ですが,ブラックバスをはじめとしてアライグマやネコやサルになるとさらに感情的な反発が強まる可能性もあるので如何に説伏するかは難しいですね.在来の自然のいきものを充分に知っているような自然体験があれば外来種対策が感情的にも理解できるでしょうけど,家庭内のペットとバス釣りしか人間以外の生物とのふれあいがない人も世の中には多いだろうから,そうした人たちは何をどう感じるのか.

 「かわいそう」の感情は人間的ではありますが,「深く考えずにきれいごとを言う」のは問題を悪化させる可能性もあることを知って欲しいですよね・・・

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