« 世界最小の脊椎動物 | Main | 科学ジャーナリズムの世界 »

2004.08.02

遺伝学でわかった生き物のふしぎ

遺伝学でわかった生き物のふしぎ
ジョン・エイバイズ著,屋代通子訳 築地書館 2004年


 DNA分析をおこなって生物地理や保全に関する研究をしている研究者や大学院生にはよく知られているJohn C. Avise氏の著書の初邦訳.原著はGenetics in the Wild

 原著者のジョン・エイバイズ氏は1980年代から発展した遺伝子解析の技術を野生動物の分類・系統・生物地理などに幅広く用いて,Phylogeography(生物系統地理学)という分野を創出した人物で,専門家や大学院生には同著者の「Molecular Markars, Natural History and Evolution」や「Phylogeography」のほうがよく知られているかもしれない.

 遺伝子解析のような分子生物学の研究と野生動物を扱う野外研究は,どちらかといえば生物学の中の両極端のような印象もあるし,実際にどちらか一方の技術にのみ長けた研究者の方が圧倒的に多いのだが,実際に野外に出て生き物に触れながら,その遺伝子を調べることで生物の歴史的・空間的多様性を知る研究は非常にイマジネーションを刺激するし,その成果をわかりやすく多くのナチュラリストと共有するための本は重要である.「遺伝学でわかった生き物のふしぎ」は,そうした野生生物の遺伝子解析が,いかにおもしろい現象を明らかにしてきたかを豆知識のような小話の形で楽しく読ませてくれる.訳者が生物の専門家ではないために不自然な訳語も多いが,その点にさえ気を付ければ,それほど問題はないだろう.また,わかりやすくするために表面的な成果の紹介に留まっている面もあるが,巻末に各話の元になった原著論文が引用してあるので,興味を持った話については原著論文を入手して読めばいいので,専門家にとっては新しい研究をするためのネタ帳として使えるかもしれない.

 個人的には,純粋な生物学的な話は知っているものが多かったので(ネタ元の原著論文を読んだことがあるのもちらほら),「野生の法医学」と題して紹介されている一連の話がおもしろかった.漢方薬で鰭脚類(アシカ・オットセイ・アザラシなど)のペニスとして売られているものには犬や家畜や水牛の組織が多いとか,アメリカで食用のカメ肉として売られているものの二割くらいはワニ肉だったりとか,高級キャビアの調査したうち23%はラベルと違う種類のチョウザメの卵で,その多くは密漁された絶滅危惧種のチョウザメの卵だったりといった話が,なんともいい加減な食品表示を如実に表していて興味深い.日本でも,某大手食品メーカーの魚卵は表示と違うという噂を小耳に挟んだことがあるし,数年前に東南アジア某国から輸入を検討している魚加工品を現地企業がチチブだとかマハゼだとか言ってるのは本当でしょうかと問い合わせを受けたこともある.たぶん「加工しちまえばバレないさ」と思ってるんでしょうけど・・・

 それから,「遺伝学でわかった生き物のふしぎ」の中の「地球上でもっともありふれた脊椎動物は?」という話の元は,宮正樹氏(千葉中央博)と西田睦氏(東大海洋研)が書いたユキオニハダカという深海魚の論文の内容を紹介したものである.極楽ドンコの書いた論文もエイバイズ氏の「Phylogeography」の方では引用してもらっているのだが,一般書で紹介してもらえるほどのものではないので・・・がんばっておもしろい研究をするようにしたいものである.


 ちなみに,米国ではエイバイズ氏の自伝が高く評価されているらしいのだが,その表紙は水辺で胴長を履いてたも網でカメを捕まえているエイバイズ先生の御写真が・・・・いやぁ,もう親近感たっぷりです.→自伝の表紙

|

« 世界最小の脊椎動物 | Main | 科学ジャーナリズムの世界 »

TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/5018/1106080

Listed below are links to weblogs that reference 遺伝学でわかった生き物のふしぎ:

« 世界最小の脊椎動物 | Main | 科学ジャーナリズムの世界 »