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2003.12.13

川と湖沼の侵略者 ブラックバス

「川と湖沼の侵略者 ブラックバス」日本魚類学会自然保護委員会編 恒星社厚生閣

2002/07/13に自分のサイトの掲示板に書いた感想の採録

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 まず、言っておきたいのは、この本は「買い」であろう、ということです。昨年の公開シンポの内容がベースになっているとはいえ、口頭発表だけでは聞き流してしまった部分もあるわけだし、具体的なデータや参考文献を押さえておくための資料にもなります。非常に熱い語りも多く、魚類学会サイドの不退転の決意を示したものでもあります。
 さて、その内容ですが、全8章のうち、前半5章まではすでに明らかとなった事実にもとづく基礎情報の整理といえます。1章はオオクチバス属の分類、2章は日本におけるバスの生活史、3章は伊豆沼におけるバスの増加と魚類群集の変化の記述、4章はバスのトンボ類の捕食、水生昆虫への影響を示す事例の紹介、5章は長崎の川原大池におけるバス・ギルの生態と個体数変動の実態と在来魚種との関係をそれぞれ述べています。
 基本的に事実の記述(のはず)なのですが、2章の淀氏による議論には、一部疑念が残ります。議論の内容として、オオクチバスが全国に急速に分布拡大し、定着、増加した理由を、オオクチバスの生態に「だけ」求めているところが引っかかるのですが、バスの定着・増加には人為の影響が極めて大きい可能性もあるのではないでしょうか。つまり、継続的なバスの再放流という、バス本来の生態的特性ではない原因で「見かけ上」定着しているかのように見える水域もあるのではないか、ということです。ソースを失念してしまったのですが、只見湖かどこかで密放流を監視し、湖内のバスを駆除することでかなり成果が挙がったらしき例もあったはずです。只見湖だったとすれば、湖へアクセスする道路が少なく、密放流の完全抑制も可能でしょうから(琵琶湖だと絶対不可能・・・悔しいですが)、ありえる話です。しかも、まだ未発表ですが琵琶湖にフロリダバスの密放流がなされていることが遺伝的分析から見出されているらしいし、各地で見つかり続けているコクチバスがいるのも、密放流が継続的に各地で多くおこなわれている根拠でもあるでしょう。ちなみに、もとのバス集団に対して充分に有効な個体数が放されなければ遺伝的分析でフロリダバスの雑種が見つかるなどということはないでしょう。不要な仮定を切り捨て、シンプルな仮説を選択するのは科学の基本ですが、明らかに考慮すべきアーティファクトを無視した議論は無意味です。
 伊豆沼の事例は、バス問題に興味のある人にはすでに知られる事例であり、資料的価値は高いでしょう。川原大池の話は、同じ著者が「稚魚の自然史」(北海道大学図書刊行会)に同じデータで一章書いていますが、「稚魚」ではチチブとゴクラクハゼをメインにし、こちらの本ではバス・ギルに焦点を当てています。個人的には、「バス」のほうに新たに書かれた内容のほうが興味深いです。
 トンボの話は、バス問題が「魚対魚という図式に矮小化され」てきたことを指摘されていて、少し耳が痛いのですが、実際問題としてバスがさまざまな生物に悪影響を及ぼしている貴重な実例集であり、魚類学者・愛好家以外のナチュラリストの多くと協力していくべき問題であることを思い出させてくれます。
 後半3章は、生物学的な記述よりも、社会的な面からこれまでの経緯の整理を行い、どうするべきかの提言がなされています。ぼく個人としては、この後半こそが興味深く、熱く魂のこもった文章に心を惹かれました。
 6章では、山梨県の一部(断じて全部ではない!)の湖でオオクチバスが苦渋の選択として漁業権魚種として認定された経緯と、現状においても決して外来種を容認しているわけではなくそうした場所でのオオクチバスの二の舞を決してすまい、という現場の意思と今後への提案が語られます。7章では、丸山先生による水産庁の対応の変化や政治家をまきこんだ日釣振のようなバス業界団体などの動き、外来種問題に対処すべく魚類学会で一気呵成に自然保護委員会が結成され、その時期におこなわれていた日釣振の百万人署名に先手を打つ形で外来種問題をアピールし、とりあえずの最悪の事態を回避した経緯などは、読んでいて手に汗握りましたし、(ぼくにとって)恩師であり先輩である先生たちの力と熱意を認識できてうれしく思うところもあります。最後の8章は外来種問題としてのバス問題の再整理です。海外の文献なども参考になるので、学術論文を入手し読むことの出来る立場の方は、是非原著にもあたって欲しいと思います。
 また、7・8章には、バス擁護のための奇妙な論理に対する丁寧な反論もあり、同様のことをある程度はぼくも自分のサイト内で書いたりしていましたが、「その通り!」と喝采したくなるところもありました。
 その他、本書の内容に触発されて、いくつか思うところもありましたが、それはまた別に書きます。

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